在留資格「技術・人文知識・国際業務」~「国際業務」編

概要

在留資格「技術・人文知識・国際業務」の「国際業務」は、通訳・翻訳や海外取引などに関する業務に従事することを想定したものです。
また「国際業務」の業務は、「人文知識」で求められる文系の専門知識を必要とする場合が多く、在留資格認定書交付申請等の際には、「人文知識」と「国際業務」の双方の在留資格該当性と上陸許可基準適合性を検討することになります。

在留資格「技術・人文知識・国際業務」で上陸の許可を得るには、いくつかの条件を満たす必要がありますが、主な条件である「在留資格該当性」「上陸許可基準適合性」について、在留資格「技人国」の「国際業務」にテーマを絞り解説します。

<補足>
上陸許可の条件の一つである「上陸許可基準適合性」の上陸許可基準(在留資格ごとに省令で定められた学歴や職歴などの基準)は、在留資格によって、当該基準があるものとないものがあります。また、上陸許可基準は上陸許可の条件(在留資格認定書交付申請)において考慮されるだけではなく、在留資格変更許可申請や在留期間更新許可申請においても考慮されます。
<参考>
「在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請」とは?
「上陸許可の条件」とは?
「技術・人文知識・国際業務 ~ 技術編」 「技術・人文知識・国際業務 ~ 人文知識編」

在留資格該当性

在留資格「技術・人文知識・国際業務」で上陸許可を得るためには、入社後に行おうとする活動(従事する業務)が、入管法に定めてある在留資格「技人国」の「本邦において行うことができる活動」に該当する必要があります(在留資格該当性があることが必要です)。
もちろん、在留資格「技人国」での在留が認められた後も、「技人国」で在留中は、引き続き「技人国」の在留資格該当性を満たさなければなりません。

各在留資格の「在留資格と本邦において行うことができる活動」は、出入国管理及び難民認定法(入管法)の別表第1及び別表第2に定められています。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」の活動は、この入管法「別表第1の2」に定められています。

<入管法別表第1の2>
【在留資格】
 技術・人文知識・国際業務

【本邦において行うことができる活動】
 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項、芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで及び企業内転勤の項から興行の項までの下欄に掲げる活動を除く。)

本邦の公私の機関との契約

「本邦において行うことができる活動」において、冒頭に「本邦の公私の機関との契約に基づいて」とあります。
「本邦の公私の機関との契約」は、一般的に、申請者(外国人)と日本にある会社との雇用契約を指します。

なお、「本邦の公私の機関」や「契約」は、上記の場合に限られません。
例えば、「本邦の公私の機関」には、国や地方公共団体などの法人をはじめ、日本に事業所を有する外国の法人なども含まれます。また、「契約」には委任、委託なども含まれます。

在留資格該当性を満たす条件として、申請者(外国人)と本邦の公私の機関との間に契約が締結していることが必要です。

「国際業務」の場合

在留資格「技術・人文知識・国際業務」の「本邦において行うことができる活動」から「国際業務」にあたる部分を抜き出すと次のとおりになります。

【本邦において行うことができる活動】
 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項、芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで及び企業内転勤の項から興行の項までの下欄に掲げる活動を除く。)

括弧書で「(一の表の教授の項、芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで及び企業内転勤の項から興行の項までの下欄に掲げる活動を除く。)」とあります。
これは「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動」に該当する活動であっても、括弧書内の在留資格である「教授」「芸術」・・・などに該当する活動は、「技人国」で行える活動ではないことを示しています。
これら括弧書内の在留資格「教授」「芸術」・・・に該当する活動を行いたいのであれば、「教授」「芸術」・・・の在留資格を得るための申請など(在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請、資格外活動許可申請)をしなければなりません。

「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」(に従事する活動)とあります。
ここでいう業務は、外国人が従事すれば国際業務として認められるわけではなく、外国の文化に根差したもので、一定水準以上の専門的能力を必要とする業務です。
具体的な業務は、後記する上陸許可基準において例示されており、「翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務」になります。

上陸許可基準適合性

在留資格によっては、上陸許可の条件として、一定以上の学歴や職歴などを求めるものがあります。
この基準を「上陸許可基準」といい、この基準を満たす必要があります。(上陸許可基準適合性が必要です。)

上陸許可基準適合性は、その名のとおり、上陸許可を判断する要件の一つですが、在留資格変更許可申請や在留期間更新許可申請においても考慮されるものです。

<参考>
「上陸許可」の条件については、こちらで解説しています。
 外国人が上陸を許可されるための条件 | 福岡の行政書士(元国際捜査官)のブログ

この上陸許可基準は、出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(上陸許可基準省令)により定められています。

出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令 | e-Gov 法令検索

この省令の在留資格「技人国」の上陸許可基準は、以下のとおりです。

<上陸許可基準省令>
【活動】
 法別表第1の2の表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動

【基準】
 申請人が次のいずれにも該当していること。ただし、申請人が、外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律(昭和六十一年法律第六十六号)第九十八条に規定する国際仲裁事件の手続等及び国際調停事件の手続についての代理に係る業務に従事しようとする場合は、この限りでない。

一 申請人が自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務に従事しようとする場合は、従事しようとする業務について、次のいずれかに該当し、これに必要な技術又は知識を修得していること。ただし、申請人が情報処理に関する技術又は知識を要する業務に従事しようとする場合で、法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験に合格し又は法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する資格を有しているときは、この限りでない。
イ 当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学を卒業し、又はこれと同等以上の教育を受けたこと。
ロ 当該技術又は知識に関連する科目を専攻して本邦の専修学校の専門課程を修了(当該修了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)したこと。
ハ 十年以上の実務経験(大学、高等専門学校、高等学校、中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該技術又は知識に関連する科目を専攻した期間を含む。)を有すること。

二 申請人が外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合は、次のいずれにも該当していること。
イ 翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。
ロ 従事しようとする業務に関連する業務について三年以上の実務経験を有すること。ただし、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、この限りでない。

三 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

「国際業務」の場合

在留資格「技術・人文知識・国際業務」の「国際業務」に関する内容を少し要約すると

●「同様の業務を行う日本人の報酬(給与・賞与等)と同じ、またはそれ以上の額の報酬であること」は必須条件。

●「技人国」の「国際業務」に該当する業務に従事するなら、以下の条件のいずれも満たさないといけない。

  • 翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。
  • 従事しようとする業務に関連する業務について三年以上の実務経験を有すること。ただし、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、この限りでない。

という基準になっています。

「国際業務」の業務について

上記の「在留資格該当性」について、「国際業務」に該当する業務は、「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」と示されていましたが、さらに「上陸許可基準」では、

「翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝」
 又は
「海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務」

と限定的に例示されています。

実務経験について

「国際業務」での上陸許可条件は、「従事しようとする業務に関連する業務について、3年以上の実務経験」があることが必要です。
この実務経験は、学校に通いながらアルバイトなどをしたことは含まれず、会社員などとして職業活動を行ったことをいいます。

また「ただし」書として、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、3年以上の実務経験は問わないとされています。
つまり、「大学卒業者」は、専攻科目に関わらず、従事しようとする業務が「翻訳・通訳」「語学の指導」に係る業務であれば、上陸許可基準を満たします。
なお、国内外の大学の卒業者(短期大学士以上)であることが条件ですので、専門学校卒業者は含まれません。
実務経験がない専門学校卒業者(専門士)が通訳などの業務に従事しようとする場合は、「技人国」の「人文知識」の条件を検討することになります。

以上のように、「国際業務」の上陸許可基準を満たすためには、原則3年以上の実務経験が必要ですが、通訳や翻訳などの業務については大学卒業者であれば上陸許可基準を満たします。

おわりに

在留資格「技術・人文知識・国際業務」の「人文知識」と「国際業務」は、一般的に文系職種にあたるもので、双方の在留資格該当性については類似する点が多くあるものの、求められる上陸許可基準が異なるという特徴があります。
在留資格認定証明書交付申請等を検討する際は、従事しようとする活動や申請者などについて、その在留資格該当性や上陸許可基準適合性の有無を十分に確認しなければなりません。

<参考>
虚偽申請などの不正手段を用いて在留資格を得ることは言語両断の行為ですが、不法就労などに関する報道が絶えません。
在留資格該当性がないにも関わらず、「技人国」の活動を行うと、刑罰規定のある資格外活動罪が成立し、さらに退去強制事由に該当する場合があります。
また、雇用主等の資格外活動への関与については、不法就労助長罪や資格外活動幇助罪が成立します。
上陸許可基準適合性についても、上陸許可基準を満たそうと虚偽の文書を提出するなどは、在留資格が取り消される事由であり、退去強制事由に該当する場合があります。

ひぐち行政書士事務所のホームページ